CAMPUS GENIUS AWARD SILVER

受賞作品

Portrait of Daucus carota

インスタレーション

石塚千晃(作者/代表者)

情報科学芸術大学院大学

審査員・評価員コメント

「スーパーに並べられているニンジンが人工的物的に感じられた」(石塚)ことに端を発する本作は、日常の事物の成り立ちに踏み込むことで、複数の可能的なあり方を探索していくアートとしてのフィールドワーク的実験である。畑からスーパーまでの流れ(商品としてのニンジン)、野生の状態、作者自身による組織培養実験という3事例の並列は、造形された「自然」とそうでないもの、人間によるさらなる操作可能性との比較を通して、技術、社会そして経済との相乗的関係を示唆しつつ、人間という存在にまでさりげなく踏み込んでいる。組織培養については唐突な感も否めないが、本人がバイオアートに関わっている事実に加え、この領域への自己言及として解釈した。

四方 幸子


野生に生えているもの、農場で生産され、選別されたのち出荷されるもの、シャーレの上で組織培養されるもの、この3つの「ニンジン」の状態を丁寧になぞることで、僕らが当たり前だと思っていた「ニンジン」はある限定的な側面でしかないことを鮮明に気づかせてくれる。そして、その3つのニンジンの形態の違いは、自然環境、社会の経済的、美的価値観、そもそも細胞の塊としてのニンジンがもつポテンシャルなど、さまざまな要因によって生み出されることを知る。僕らが普段見ている「ニンジン」は極めて社会的で人間的な「ニンジン」なのだろう。またそれは、人がどのように環境と関わって生きているかというあり方を「ニンジン」を通じて見せてくれる。

谷口 暁彦


Daucus carotaとは栽培種ニンジンの学名。その肖像というタイトルの本作は、同名のtumblerページで提出された。そこからは、ビデオと写真のインスタレーションの記録とそこで上映されていたビデオを見たり、「ニンジンをモデルとした生物の形と人為の関係についての研究」という修士学位論文を読んだりすることができる。生命、人為と自然、現代社会と食べ物、自然科学と芸術表現などのテーマは、44ページにまとめるには大きすぎる感がなくないが、「ニンジン」という身近な野菜に対する作者の好奇心の広がり方や、野生の観察、農家とのインタビュー、加工工場の調査、実験室における組織栽培など、様々な手法を用いて探求していく様子が非常に興味深い。この探求に何かのレッテルを張ることについて懐疑的な理由は、作者の世界の見方、作者が世界を理解していく方法の個性を大事にしたいからだ。

馬 定延